わたしの知るところ、伸びている会社は例外なく従業員満足度が高いという共通点があります。当然です。従業員が満足していない会社で、お客様満足のための努力などできるはずもありません。お客様満足がなければ売り上げも伸びない。
つまり従業員満足は、お客様満足に匹敵するのです。どんな会社も、お客様と社員がいない会社はありません。好況の持続も不況の克服もすべて社員にかかっています。年齢は関係ありません。お客様満足と従業員満足は、いってみれば自転車の両輪のようなものです。社長の仕事とは、両者のバランスを取りながら自社を目的の地にまで運ぶことです。
では、具体的にはどのようにして従業員満足を高めるか。
従業員にとって一番の関心事は給料、そして人事です。これらは、中小企業では社長の個人的な好き嫌いや胸先三寸で決めてしまいます。これがいけない。昇給・人事こそ、不完全な基準でも作成し、よくよく説明し運用しなければならない。多くの従業員が納得しない昇給・人事を行なうと、優秀な従業員はやる気をなくして結局は辞めてしまいます。
特に「あの人は使いやすそうだ」という視点での人事異動は危険です。社長が能力とは関係なく、いわゆる「提灯持ち」を取り巻きにするとどうなるでしょう。良質の仕事をするよりも社長に気に入られることばかりを気にする社員が増えて、組織は腐ります。無能な上司は優秀な人材を駄目にします。無能な上司は、無能というだけで人を、組織を、そして仕事を殺してしまうのです。
我が社では、従業員の序列は課長職以上の社員の360度の衆目評価による投票によって決めます。昇給・昇進についても明確な基準を設け、「これこれのことを達成したら×××円の昇給」「これをクリアしたら×等級昇進する資格を得る」と定めている。こうした基準は、すべての従業員にとって平等なものになっているか、というと実はなっていません。しかしそれはそれで仕方ないのです。すべての従業員を納得させる昇給・人事の仕組みは作れないのです。
だとしても昇給・昇進について明確な基準があることが正しい。従業員はこの基準があることで、「100%納得はできないけれど、まあ仕方がないか。社長の個人的な好き嫌いで決められるよりはましだ」と思えるからです。我が社の社員勉強会などで、昇給・昇進の仕組みについてはかなりの時間をかけて従業員に教育しています。我が社には昇給・昇進の基準があること、そしてその基準はどうなっているかをきちんと理解させること——これをしなくては、従業員の不満はたまる一方です。
先月の全社員勉強会で一般社員に、「10人いたらA評価は何人ですか」と質問したら、「3人」と答えられた社員は一人もいなかった。全員、給料体系勉強会に3回も参加させてです。信じられないような話ですが事実です。若い課長の30%も答えられなかった。
賞与の成績評価は昇給評語となり、昇給評語の点数の累計は課長・部長への重要な点数となるが、多くの社員は理解しようとしない。でも不満だけは言うのです。
従業員満足を高めるもう一つの方策は、常に夢を与えることです。
1990年、我が社の経営計画発表会で、わたしは「5年後の売り上げを現在の倍にする」と発表しました。社員従業員は一様に驚きました。当然です。単純計算で毎年115%ずつ売り上げを伸ばしていかなくてはならないのですから。しかし同時に、彼らはこうも考えるのです。「社員は現在、部長が3人、課長が6人いる」「5年後、売り上げが倍となると組織も大きくなり、部課長の数も倍増する」「俺にも昇進のチャンスがあるぞ」「給料が上がるかも」。
現実には、そういうことはありません。ポストは増えるでしょうが、現在の倍にはならない。ですが、社員はそう思い、夢を持つのです。夢があるから努力できる。それが的外れなものであれ、夢は常に必要です。人は夢なくしては決して努力しない。弱い高校の野球部も、甲子園という夢があるからこそ激しい練習ができる。それと同じです。「部長」「課長」という夢を持たせるのがやる気を引き出す仕組みです。
この発表会から5年後、我が社は社員の期待を裏切って売り上げを倍増させました。売り上げを伸ばすのは確かにしんどい、できないと思えば従業員は努力しない。なんとか達成しようと思えば努力する。その差です。従業員にとってやりがいのある職環境を整え、その幸せを確保していくこともまた、社長の大切な仕事です。
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